私たちは常々、悩みを抱えて生きています。
「お金がない」「生きていて楽しくない」「職場、学校で人間関係がうまくいかない」など、現代社会においてこのようなトラブルは枚挙にいとまがありません。
しかし、私たちの多くはそのような悩みの適切な対処方法を知らないまま、その苦痛に耐えて生きています。
私たちは、どのようにして悩みに立ち向かっていけばよいのでしょうか?
その答えが、近年、数々の研究によって明らかになりつつあります。
なぜ悩むのか
根本的に、なぜ私たちは悩んでいるのでしょうか。
「解決することに苦労しているから悩みなのです」と言われれば、まあその通りかもしれませんが、今回は、私たちの悩み方に焦点を当ててみたいと思います。
簡単に言ってしまえば、原因は、「ネガティブな思考と感情の反芻」です。考えすぎということです。
それを理解するには、私たちが抱えている悩みがなぜ悩みなのかを考える必要があります。
悩みというものは、周りの環境、自分の心理状態などの様々な要因によって発生するものですが、結局のところ、概して、あれこれ感情的に考えてしまうから悩みになるんですね。
悩むということは、ある状態(お金がない、人間関係がうまくいかない、など)に苦しんでいるということです。
ですが、悩んでいるときの自分を想像してもらうと、その苦しみは、自分の思考から来てはいないでしょうか。理想と現実を比較する、○○のようになりたいと思う、自分はダメな奴だと思う。問題の解決方法を冷静に考えることなくネガティブな思考に身を任せているから、いつまでも上手くいかず、ただの「問題」が「悩み」になる。
実際、臨床心理の世界では、ネガティブな思考と感情の反芻が抑うつ状態や、うつ病を引き起こす最大の要因であるという声もあります。
この「反芻」のやっかいなところはいくつかあって、
- 抜け出せない…経験のある方はお分かりになられるかと思いますが、こいつから逃れるのは本当に至難の業です。ポジティブシンキングとか言いますが、無理やり変えようと思ってもできるものではありません。
- 集中力が低下する…こうした強烈にネガティブな思考は、私たちの注意を問題解決ただ一転に集中させます。(この機能があることで、私たちは反芻から抜け出せなくなったり、どんどん悪い方へ考えていったりしてしまいます)こうなると活用できる脳のリソースはもちろん限られてしまい、他のことに集中できなくなってしまいます。
- うつ病リスクの上昇…先ほど触れたように、ネガティブな反芻はうつ病のリスクを急上昇させます。うつ病になるとこれらの要素に無気力や脳の、理性をつかさどる部分の活動低下などが相まって、さらに悩みから抜け出せなくなってしまう可能性があります。
反芻する思考について、より詳しく知りたい方はこちら
まとめると、悩みは思考と感情の反芻によって発生しているということです。ではどのようにして私たちは悩み、その根本的な問題を解決していけばよいのでしょうか。ここからは、最新の科学が発見した、良さげな悩み解決お助けツールを紹介します。
悩みは脳が睡眠中に解決してくれる!?
身近なことわざで、「果報は寝て待て」というものがあったり、親やおじいちゃんおばあちゃんに、「だいたいのことは寝て起きたらどうにかなる」的なことを言われたりするものです。非科学的で迷信っぽい、あてになんねーよ、と思うかもしれませんが、これが案外正しいことが科学的に明らかになりつつあります。
ハーバード大学医学部の、精神医学の教授、スティックゴールド博士によると、
睡眠中、より深いレム睡眠段階にはいると、合理的思考や意思決定を制御する前頭前野が機能を停止し、神経調節物質であるノルアドレナリンとセロトニンが放出されなくなることで、普段私たちの思考を制限しているバイアスや合理性の範囲を超えて、脳が自由に思考できる状態になります。睡眠中は、私たちが持っている常識にとらわれることなく、起きている間には考え付かないようなアイデアを思いつけるということです。
また、スティックゴールド博士は、起きている間、真剣に問題解決に取り組もうとしたところで、それは私たちを疲労させ、解決や決断とは程遠いところにしか行きつかない、と述べています。
睡眠と問題解決に関する実験
2023年9月に発表された研究が、睡眠と問題解決の関係性を示しています。睡眠とテスト結果についての調査ですが、面白かったので軽くまとめてみます。
実験概要
この実験は、英国ラフパラー大学数学認知センターの研究者、ジェイン・スピラーさんと、カミラ・ギルモアさんによって行われた研究で、睡眠と数学的記憶の接点を調査したものです。
実験には、18歳から40歳までの成人77人が参加しました。
被験者は1桁×2桁の掛け算について学習し、その10.5時間後、その掛け算についての答えを、計算せず暗記した状態で示すよう指示されます。
学習後の過ごし方で、睡眠を挟むグループと、ずっと起きておくグループに分けて行いました。
結果
その結果、睡眠を挟んだグループの方が、テストの正答率が高くなっていることが分かりました。
この傾向は、掛け算の得意な人、苦手な人関わらず見受けられました。
まとめ
悩みの発生原因とその解決策をまとめてみました。
今回の重要ポイントは、
- 身の回りの問題は、ネガティブな思考と感情の反芻によって悩みになる。
- 思考の反芻は事態を解決ではなく悪化に導く可能性がある。
- 睡眠中は問題解決能力が高まる。
この3点です。
悩みを抱えている人は、光が見えてこないときはあまり考えこみすぎず、思い切って寝るようにしてみたら、案外アイデアが出てくるかもしれません。
参考文献https://www.health.harvard.edu/blog/sleep-to-solve-a-problem-202105242463
参考にした本