前回の続きです。
前回の記事では、古賀史健さんの著作、『20歳の自分に受けさせたい文章講義』を参考に、「文章の構成は映画から学ぶ」「文章における自分の主張の重要性」をまとめました。
今回の記事では、「読者をひきつける文章の書き方」がテーマになります。
- どうすれば魅力的な文章が書けるかわからない
- 誰に向けて文章を書けばいいのかわからない
- いつも中途半端で面白みのない文章になる
方に参考になるかと思います。
読者の「椅子」にすわる
「多くの人に読まれたい」は間違っている
文章を書く上で、多くの書き手が陥ってしまいがちな罠があります。
それは、「多数派の罠」。
どういうことかというと、対象読者が絞り切れず、「多数派」「多くの人」に向けて文章を書いてしますことです。
一見正しそうですが、デメリットがあります。
それは、文章が保守的で、間の抜けた、中途半端なものになってしまうことです。
その理由は、多くの人に好感を持たれようとして、当たり障りのない事しか書けず、誰からも感情移入されない文章になってしまうからだとか。ついついやっちゃいがちなことですね。おそろしや。
特定の「あの人」に向けて書く
それを回避するために、古賀さんは主に2種類のmy読者像を想定するといいとおっしゃっています。
- 10年前の自分…5年前でも3年前でもいいですが、「過去の自分」を読者に想定して書くのがおすすめ。理由は、人間とはどんな時代でも同じことを考え、悩んでいます。そのため、どんなにその悩みが自分特有のもののように思えても、いまこの瞬間にも、「過去の自分」と同じ悩みを抱えている人がいるからです。また、過去にその悩みを経験しているため、読者に共感されやすい文章になります。
- たった一人の「あの人」…過去の自分以外で考えるなら、実在する人間でもいいし、架空のキャラクターでもいいので、対象にする「特定の一人」をきめるといいでしょう。架空のキャラを考える場合はできるだけ詳細に。年齢、仕事、経歴、住んでいる地域、交友関係などを考えるとgood。理由は、ぼんやりと対象を「典型的な20代社会人」とするよりも、言葉のベクトルがはっきりするため、「他の人々」にも届きやすくなるからです。
ここで注意なのが、特定の読者ばかりに意識が向きすぎて、「わかるやつに分かればいい」となってしまうことです。
専門書や、研究論文、マニア向け雑誌とかって、興味ない人達からすればすごくむずかしいですよね?(そもそも一般読者に向けられたものではないので仕方ないんですけどね。とはいえ、もうちょい優しくていいのに…)
あんな感じで「わかるやつだけ読んでくれればいい」といった態度で本来やるべき説明を怠っていると、読みづらい文章になってしまいます。
この解決策は、「過去の自分」や、「たった一人の誰か」以外の、もうひとりの読者を想定する。ことです。
具体的には、世代や価値観が自分とまったく異なる、親を「他者」代表として想定する方法です。
自分の文章を見直して、「お父、お母はこの文章理解してくれるかなー」と考えてみるといい感じでしょう。
「説得」ではなく、「納得」
前回のの記事「わかりやすい文章構成は映画から学ぶ」で触れたように、私たちの多くは、「読者を動かす」ために文章を書いています。
読者を動かすためには、自分が有益と思った情報を相手に伝える必要がありますが、情報の伝え方は2パターン存在します。
- 説得…押しのアプローチ。一方的に知識を羅列して、「これを覚えろ」「こっちを忘れるな」と迫ってきます。
- 納得…引きのアプローチ。読者の興味関心事を持ち出し、情報を積極的に理解できるようになっています。
例)スマホの使い方が分からないお年寄りに、「情報化社会においてスマホの形態は必須です」などと言って迫るのが説得。一方、「スマホが使えたら、離れて暮らすお孫さんともテレビ電話ができますよ」と最大の関心ごとを持ち出し、興味をひきつけるのが納得。
例を見ても分かるように、「説得」の方は「納得」と比較して、読者の満足を得られない可能性が高いです。
なぜなら、上から押さえつけるような「説得」には、必ず読者からの「反発」があるからです。例で挙げたお年寄りの方も、「説得」の場合、「余計なお世話だ」と拒絶反応を示すでしょう。
では、なぜ人は「説得」では動かないのでしょう?
それは、「基本的に人は、他人事には興味がないから」です。
提示された情報がどんなに正しいものであっても、肝心の「心」が動かなければ、私たちはその情報を受け入れません。非合理的だなぁ。
ですから、先ほどのお年寄りの例のような「当事者意識」「最大の興味関心」や、「相手への共感」などを引き出して、相手の「心」を動かす必要があります。
読者を「納得」させる方法
読者に伝えたいことを届けるためには、読者の「自分事感」「興味関心」「共感」を引き出す必要があります。
その方法は、3つあります。
1.「仮説」と「検証」をいれる…これは、自分独自の、一般論と相反する「仮説」を文章の早い段階で提示し、読者と一緒になって、その「仮説」が正しいかどうかの検証作業を行う方法です。
ここでは、文章構成を「起 ”転” 承 結」にする方法を紹介します。
具体的に構成を見ると、
- 起…自分が主張したい仮説と真逆の一般論
- 転…一般論を否定する仮説
- 承…仮説の裏付け
- 結…結論
という感じで構成することになります。「起」と「承」が前回の記事(「文章の構成は映画から学ぶ」)でいうところの、「導入」になりますね。
例)
- 本は書斎やリビングで読まれることが多い(一般論)
- しかし、私は半身浴で読むのがいちばんだと思う(相反する仮説)
- (仮説を裏付ける理由、検証)
- だからスマホ、タブレットの防水機能は必須なのだ(結論)
このように、冒頭にて一般論が否定されることで、「どんな議論が展開されているんだ?」と読者の興味、関心を引くことができます。
2.読者と「寄り道」する…あらゆる文章において、読者は「素人」です。まあ、専門的な知識が豊富な方とかもおられるでしょうが、少なくとも、「筆者の主張」に関しては、全ての読者が「素人」と言えます。
ですから、いかに「主張」が的を得ていて、その根拠がしっかりしているものであっても、理路整然としすぎた文章は読者からすると、「説得」された感が出てしまいます。
それを避けるために、自分の主張に自分でツッコミをいれます。
具体的には、「主張」とその根拠を述べた後、想定される「反論」をあえて書くやり方です。
もちろん、読者から来るであろう「反論」を、自ら「再反論」する必要があります。
例)
- 主張…高校では日本史を必修科目とするべきだ
- 理由…世界史が必修で、日本史が選択科目になっているのはおかしい
- 反論…一方、「国際化に対応するには世界史だ」という意見もある
- 再反論…しかし、国際社会で自国の文化や歴史を語れない方が問題だ
- 事実…実際のところ、他の国々では自国の歴史教育に力を入れている
- 結論…今後ますます国際化が進むからこそ、日本史の教育に力を注ぐべきだ
このように、読者が挙げてきそうな疑問にしっかり答えることで、読者の当事者意識を引き出しつつ、「納得」してもらうことができます。
「納得」してもらうために絶対やってはいけないこと
一方で、読者を「納得」させるためにやっていはいけないことがあります。
それは、「自分の頭で分かったこと」以外は書いてはいけない、ということです。
ハリウッド映画に出てくる、奇妙な(少し中華風の)日本や日本人の描写を見て「なにこれ?」と思った経験は誰にでもあるのではないでしょうか。
このような描写から、物事の描写は、細部になればなるほど手を抜けないことが分かります。
前回の記事(「文章構成は映画から学ぶ」)でも書きましたが、正確な細部の描写が、リアリティをつくります。
理解の浅い事柄について、無理やり語ろうとすると、確実にボロが出ます。「何となくこんな感じ」と小さな嘘を重ねることになります。
ごまかしきれない間に合わせた感じが、読者の「納得」を妨げてしまうかもしれません。
読者のニーズを知る
私たちは普段、ビジネス系、自己啓発系の本やネットの記事を読むときに、何を求めているでしょうか。
古賀さんいわく、読者のニーズは3種類あるようで…
- 目からうろこ…「おおっ!!」「ええー!」と言うような、目が覚める読書体験を望むパターン。今の自分や社会に納得いかず、自分に何かしらの変化を求めている場合が多いようです。
- 背中を後押し…「そうそう」「よしよし」と自説を補強せんとするパターン。自分と同じ主張をしてもらって、背中を押してほしい場合が多いようです。
- 情報収集…「ふむふむ」「なるほど」と冷静で客観的な意見を求めようとするパターン。専門性の高い、客観的な情報をもとに、自分で判断しようとする場合が多いようです。
文章を書く上で大切なことは、それぞれのニーズを満たす要素を文章の中に取り入れることです。
驚きや感動ばかりではなく、「よしよし」「ふむふむ」と思ってもらえるような要素を取り入れましょう。
まとめ
今回は、「読者をひきつける文章の書き方」をまとめました。
今回の重要ポイントは
- 多数派に向けて書くのはNG。特定の読者像を決めて文章を書こう
- 「当事者意識」「興味関心」「共感」を引き出し、読者を説得するようにしよう
- 起”転”承結の構成は読者をひきつける
- 分からないことは書かないようにしよう
- 読者のニーズをとらえて、偏りない文章を書こう
以上の5点です。
次回は、「文章の編集の仕方」がテーマになります。