こんにちは。三本京です。
【書評・要約】は、三本が、読んだ本の個人的重要ポイントと感想をご紹介するコーナーです。
先日、「Chatter 頭の中のひとりごと」という本を読みました。
この本は、ミシガン大学教授で、感情と自制の分野で世界的権威であるイーサン・クロスさんの著書です。ホワイトハウスの政策議論にも参加したりと、色々とすごい人のようです。
本書のメインテーマは、ずばり、「頭の中の声をどうやって手懐けるか」です。「頭の中の声」とは、過去のことを振り返っては、「あの時こうしておけばよかった。」と考えたり、未来のことを予測して「○○が起こったらどうしよう。」と不安に駆られたりする「あれ」のことです。それらがなぜ存在するのか、どんな問題点があるのか、そして、どのように対処すれば良いか、が本書では説明されています。
この本は
- 考え事が止まらなくて夜寝られない
- いつも、ネガティブなことばかり考えている
- 反芻する思考をどうにかしたいけど、適切な方法が分からない
方にオススメです。
個人的に重要だなと思った点と、感想をまとめていきます。
どんな人にも宿る、内なる声「Chatter」
- 私達は、生きている時間の二分の一から三分の一ほどの時間を、「今」以外の時間に意識を向けて生きているという。息をするように自然に、「いま、ここ」から「離脱」し、過去の出来事、想像上のシナリオ、他の内面の瞑想へと導かれている。こうした傾向は極めて基本的で、脳の「初期状態(デフォルト)」とさえ言える。ここで用いられる、基本ツール「内なる声」は私達に様々な恩恵をもたらすと同時に、時として悪影響をもたらす。
- それはストレスがたまる、リスクが高まる、冷静さを損なうような厄介な感情にさらされる時。そんなときに内なる声は「Chatter」へと変貌する。「Chatter」とは、循環するネガティブな思考と感情によって構成される、反芻される思考のこと。
ここではそんな「内なる声」の存在理由と問題点をまとめます。
頭の中の声はなぜ存在するの?
- 事象の理解とシミュレーション…私達の頭の中の声というのは往々にして、すでに起こってしまったこと、これから起こり得ることに関心が向きやすい。なぜならば、時間と空間をあちこち飛び回って思考することで、私達人間は、ほかの動物にはまねの出来ないやり方(内的言語を用いたやり方)で自分の経験を理解し、将来の計画を立てたり、不測の事態に備えたりすることができるからだ。
また、目標達成のためには、その達成度を評価し、正しい選択のためにさまざまな可能性を探る必要がある。そのために、頭の中の声を用いた内省が機能として重宝されている。
- 作業記憶…脳にとって必要不可欠な仕事は、「ワーキングメモリー(作業記憶)」と呼ばれるものを動かすことで、ワーキングメモリーのおかげで、私達は必要な情報を短期的に記憶し、活用できる。
ワーキングメモリーを構成する重要な要素は、言語的情報の管理に特化した神経系。それは脳の情報集散センターとして身の回りの言葉に関する問題を処理している。つまり、この言語に関する神経系がワーキングメモリーと密接にかかわっており、重要な情報を記憶しようとして稼働するために、内なる声は存在する。
- 自己制御…20世紀初頭、心理学者、レフ・ヴィゴツキーが言語の発達と自己制御のつながりを発見した。そのプロセスは以下の通りだ。
養育者は私たちを指導する。私たちは彼らが言うことをまねて、その指導を自分自身に向かって声に出して繰り返す。時が経つにつれ、私たちは保護者のメッセージを内的言語をして獲得する。されに成長すると、それ以降の人生で、自らの言葉を使って自らを制御するようになる。
このようにして私達は、言語を用いて「自制」を行うようになる。
(他でもさんざん言われていますが、やはり人生の初期における親の指導や言葉って、その後の人生に大きな影響を及ぼすみたい。)
- 物語化…言語の流れは、自我の創造に必要不可欠な役割を果たしている。先にも述べたように、内なる声は時間と空間をあっちこっち飛び回り、経験を理解する。そのプロセスで様々な記憶同士をつなぐことで神経による記憶の物語を創り出し、私たちのアイデンティティを構築する。
Chatterが引き起こす問題
前述のとおり、内なる声は時として私たちに害をなす。以下はそのまとめ。
- 過剰な注意による失敗…私たちが良くない感情に圧倒されているとき、Chatterくんは、私たちが出くわす障害だけに注意力を向け、それ以外のほぼ全てのことを無視するように仕向ける。そのような状態で身につけた自動的な動作を行おうとしている場合、逆に失敗し、悪循環に陥ってしまいがち。
その例として有名なのは、野球のイップスで、これも自動的な動作が、過度な注意によって崩壊してしまう現象だ。
- 集中力の低下…脳の実行機能(自分の思考と行動を思い通り操る能力の基盤)は使える限りのニューロンを要するが、ネガティブな思考はその神経容量を独り占めし、感情的苦痛(不安や恐怖など)に注意力を集中させてしまう。注意力を分散されて本や勉強に手がつかないというのはよくある話。
- 孤立…1980年代末の、ベルナール・リメというベルギーの心理学者によって、人はネガティブな感情を経験すると、会話するように導かれることが分かった。
しかし、ここに一つ問題があり、度を越した愚痴は人を遠ざけてしまうということだ。また、大人を対象とした研究によって、いさかいにこだわる人は、社会的孤立を感じやすく、攻撃的な行動に出やすいことが分かっている。
今回はここまで。chatterの存在理由と問題をまとめました。ネガティブな感情を拡大させ、私たちのストレス源になると同時に、生存にも役立っているのが厄介ですね。次回はそんな厄介者の、クロスさんが紹介する調教法をまとめていきたいと思います。